【ブックレビュー】 三浦しをん・著『白いへび眠る島』
三浦しをんさんの著書『白い蛇眠る島』を読了しました。
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【あらすじ】
高校最後の夏、悟史が久しぶりに帰省したのは、今も因習が残る拝島だった。十三年ぶりの大祭をひかえ高揚する空気の中、悟史は大人たちの噂を耳にする。言うのもはばかられる怪物『あれ』が出た、と。不思議な胸のざわめきを覚えながら、悟史は「持念兄弟」とよばれる幼なじみの光市とともに『あれ』の正体を探り始めるが―。十八の夏休み、少年が知るのは本当の自由の意味か―。
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祭りが近づく中、名前を呼ぶことも忌み嫌われる「あれ」がでたという噂が島中に広がるところから物語が始まって、不穏な空気が流れ出します
夏ですからね…
「あれ」とはなんなのか
「あれ」が、島の神事を引き継ぐ重大な大祭を控えた時に現れた理由はなんなのか...
壮大な結末に注目です!!!
【この本をおすすめする人・おすすめの読み方】
高三の夏、島に戻るか揺れる悟史が経験する一夏の青春の物語です。
同年代の学生さんにも、大人のみなさんにもおすすめできる作品です。
何かを決断しなければならないとき
大切な誰かとの別れの経験
誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか
そんなときの気持ちのゆらめきや、今思えば、「あんなこともあったなあ」と笑って思い返せることでも、その当時は毎日眠れないほど悩んでいたこととか…
いろいろ思い出しながら、自分の姿を投影させながら楽しめる作品ではないかと思います
次々と現れる不穏な影...
この作品は、ホラーではないけれど、不思議なものや、人智を超えたものの存在、古くから伝わる土着の信仰や風習などに興味のある人にもおすすめします。
子どもの頃から本当の兄弟のように育った、自分の全てを受け入れてくれる光一の存在がありつつも
島の子なのに、船に乗ればひどく船酔いし、また様々な神様の伝説や因習的なしきたりを重んじる神秘的な島にいると、他の人には見えない「不思議」が見えてしまう悟史は、島での暮らしに居心地の悪さを感じています。
長男である悟史は、島のしきたりに従えば、島に残らなければならないのですが、彼はそのことに強い迷いをおぼえています。
今自分の置かれている環境に居心地の悪さを感じていたり、まわりと同じようにできないことや、自分は変わっているのではないかと悩んでいる人
また
将来の進路・就職・社会人の人でも転職を考えている人など、将来のことで迷いを感じている人が、
主人公の悟史が、どのように考え、行動し、決断するかに注目して読むのも、おもしろい読み方ではないかと思います。
わたしも高校生の頃から、発達障害のことで、周りと違うと思うことが増えて、もやもやするけど、そのもやもやを自分でもうまく言葉にできなくて、とても苦しんだ経験があるので、その当時の自分に、この本を読んでほしかったな、と思ってしまいました...
次々と現れる不穏な影...
この作品は、ホラーではないけれど、不思議なものや、人智を超えたものの存在、古くから伝わる土着の信仰や風習などに興味のある人にもおすすめします。
【 印象に残った描写やセリフ】
持念兄弟を持てるのは、島に残る立場にある長男だけに限られた。持念兄弟はある意味では、本当の兄弟よりも濃い間柄ににある。物理的にも精神的にも兄弟よりも近しく過ごし、助け合う。
悟史と光一は、お互いの父親同士もそうだった、筋金入りの持念兄弟です。「親友」なんて言葉で語れるようなものではなく、非常に強い絆で結ばれています。お互いがピンチの時にはどちらかが必ず駆けつける、そんなかけがえのない存在です。
「なんだか、なにかが起こりそうな気がするんだ。押田さんのところの、黒い人影。祭りの時期に集落の最奥部に入りこんでいる外の人間。それに、島にもどれるはずのない次男坊」悟史は自分がわくわくしてきたことを感じた。これは小さいころに、光一とよくやった遊びだ。島のほんの少しの変化をかぎつけ、なにかの前兆ではないかと二人で想像しては盛りあがるのだ。
ちょっぴり不安もあるけれど、それ以上にわくわくドキドキが止まらない、幼いころの友人と分かち合った気持ち。
わたしも、初めて通る道を、「どこまで続くんだろう」と心を弾ませながら、近所の友だちとただおしゃべりしながら歩いていた、楽しかった気持ちを思い出しながら読んでしまいました。
悟史はこみあげる孤独感を抑えようとした。そういうことに敏感すぎる己を恥じた。人と違って当たり前なのだし、周囲との齟齬を感じるのもおかしなことではない。悟史は自分に必死にそう言いきかせる。しかし、どうやっても不安の渦は次々に生まれた。(P118,L7-9)
普通の人には見えないものが見えてしまう悟史の絶望感・孤独感が強く表れている一文だと思いました。
それでも悟史は、最終的な結論を導きだすのが恐ろしいような気がしたので、返事を濁した。長男なのに島を出た人間の話を、少なくとも悟史は聞いたことがなかった。それは故郷も家族も捨てることのように、悟史には思えた。(P165,L11-13)
悟史の迷い・葛藤・後ろめたさがひしひしと伝わってきます...
「逃げ出したい場所があって、でもそこにはいつまでも待っててくれる人がいる。その二つの条件があって初めて、人はそこから逃れることに自由を感じられるんだ」(P157,L4-5)
幼いころに母親に家を出ていかれ、さらに、船の事故で父親をも失ってしまった光一が、悟史に言ったセリフ。待っていてくれる人がいない自分が島を出ても、それは自由ではなく、孤独なだけだと。島を出るかゆれる悟史に向けての言葉ですが、この作品を読んでいて、わたしが一番心に刺さったセリフでもありました。
【キーポイント】
余所者が入ってくることをよしとしない、因習的で閉ざされた島に暮らす様々な立場の人の、異なる考えや行動
【キーマン】
次男以下の男子が島で暮らし続けることを禁じている島の風習に逆らって、島で暮らし続ける神社の息子の荒太